執行猶予をつけて欲しい
本コラムでは、刑の執行猶予について、その制度や、執行猶予付きの判決をもらうためにすべきことを解説します。
執行猶予とは?実刑判決と執行猶予付判決の違い
刑の執行猶予(刑法第25条)とは、有罪判決にもとづく刑の執行を一定期間猶予し、その期間内に再度罪を犯さないことを条件として、刑罰権を消滅させる制度です。
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つまり、刑事裁判の結果有罪判決が下された場合でも、執行猶予が付けば実際に刑務所に入れられたり罰金を納付させられたりするのを一定期間保留にしてもらいながら、その期間内に罪を犯さずに過ごせば、判決で言い渡された刑罰は効力を失うことになります。
執行猶予期間中は、基本的には普通の生活を送ることができます。
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もちろん、刑の執行が猶予されるというだけで、有罪判決を受けたという事実というのは変わりありません。
また、その期間中に再び罪を犯してしまうと、新たに犯した罪の刑罰と保留にされていた分の罪の刑罰を合わせて科せられることになります。
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実刑判決となるか執行猶予が付くかにより、直ちに刑務所に入れられる等の刑罰を受けることになるか、その刑の執行を保留してもらい普通の生活を送ることができるかが変わってきます。
そのため、被告人が自身の犯罪行為そのものは認めている場合、刑事裁判の結果、執行猶予付きの判決を得られるかは大きな関心事となります。
執行猶予をとるべき理由(執行猶予をとる重要性)
自身の犯罪行為を認めている場合、ほぼ確実に有罪判決が下されることになります。
つまり、起訴された犯罪行為について法律上懲役刑が定められている場合は、裁判の結果として判決で懲役刑が言い渡されることになります。
裁判の結果、執行猶予がつかず、実刑判決が下された場合は、刑務所に入れられ、刑期が終わるまで刑務所で過ごすことになります。
この場合、当然勤務先への出勤もできず、家族とも面会時間以外は会うことができません。
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これに対して執行猶予が付いた場合は、勤務先が雇用を継続することを認めてくれた場合は、そのまま仕事を続けて、収入を得ることが出来ます。
また、小さいお子さんがいて面倒を見なければならない場合や親の介護が必要なケースでは、家で家族とともに過ごすことも可能です。
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以上の通り、有罪判決を受けた以上は、罪を償い、反省をすることはもちろんですが、自立した生活を維持したり、家族を支えたりすることが出来ることを考えると、執行猶予付きの判決を得ることが重要になってきます。
執行猶予がとれないケース(条件)
有罪判決が言い渡される場合、いかなるケースでも執行猶予が認められるわけではありません。
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執行猶予を付けることができるのは、①前に禁固以上の刑(禁固及び懲役刑)に処せられたことがない者か、禁固以上の刑に処されたことがあっても、その執行が終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁固以上の刑に処されたことがない者が、②3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金の言い渡しを受けた場合に付すことが出来るとされています(刑法第25条1項)。
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また、前に禁固以上の刑に処されたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁固刑を言い渡され、特に情状酌量の余地がある場合で一定の要件を満たす場合も執行猶予が付されることになります(刑法第25条2項)。
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上記の通り、そもそも、3年以上の懲役刑のみしか定められていない犯罪の場合は、減刑をされない限り執行猶予が付くことはありません。
例えば殺人罪の法定刑は死刑、無期懲役又は5年以上の有期懲役のため、減刑されない限り執行猶予が付くことはありません。
執行猶予獲得のためにすべきこと
法律上執行猶予が付けられる場合で、執行猶予付の判決がなされるかどうかについては、まずは犯情事実が考慮され、次に一般情状が考慮されます。
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犯情事実とは、簡単にいうと犯罪の悪質性に関する事情をいいます。具体的には、犯罪行為の悪質性や危険性の程度や、被害の重さの程度、犯行動機やその経緯に酌むべき点があるか、共犯の場合の役割等が考慮されることになります。
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一般情状とは犯情事実以外の量刑事情をいいます。
具体的には、被害者との示談が成立したか否か、被害弁償ができているか、前科や前歴の有無、更生のための環境が整っているか、本人の反省の有無等が考慮されます。
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つまり、執行猶予判決を得るためには、上記に述べた事項について、被告人に有利な事情を裁判でアピールしていくことになります。
被害者との示談
被害者との示談の成否は、刑事事件において刑の重さを決定する重要な要素となります。
被害者との示談については、示談金を相当額用意した上で、弁護士を通じて交渉を行っていくことになります。
その際には、謝罪文を用意し被害者に渡すことも考えられます。
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示談が成立した場合は、示談金を支払い、示談書を作成することになります。
示談書には、被疑者・被告人を許す旨の文言を入れることが可能であれば入れることになります。
ただし、被害者が許す、という文言を避けたがる場合は、「更生を期待する」といった文言であればどうか、といった点を検討することになります。
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示談が受け入れられない場合でも、被害弁償のための内金として、いくらかの金銭を受け取ってもらえないか、という点はさらに検討することになります。
贖罪寄付
示談が決裂し、金銭の受取も拒まれた場合や、直接の被害者がいない場合には、贖罪寄付を検討することになります。
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贖罪寄付は、各地の弁護士会や法テラス、犯罪被害者を支援する各種団体、日弁連交通事故相談センター等で受付をされています。
犯罪行為の内容によって、寄付する先を検討し、寄付を行うことになります。
家族の協力の誓約
また、被告人の情状弁護の一環として、ご家族の協力をお願いすることもあります。
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つまり、被告人本人の生い立ちや日常の生活状況、性格などを情状証人として刑事裁判で証言していただくことで、ご本人に有利な事情や再犯可能性がないことを明らかにすることが考えられます。
加えて、ご家族が被告人の今後の監督を誓約することで、家族の協力の下、更生することが可能である場合、執行猶予付き判決が得られる可能性が高まります。
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これらの家族の協力については、身元引受書や誓約書提出頂く方法や、情状証人として法廷にお越しいただき、今後の監督を誓約する旨の証言をしてもらうなどの方法で行うことになります。
反省の態度を示す
被告人本人の反省も執行猶予付きの判決をもらうための重要な考慮要素となります。
まずは、被告人本人が反省したことを証するため、直筆の反省文を作成する方法が考えられます。
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加えて、例えば、犯行の動機が依存症や精神疾患(薬物事犯や窃盗症など)にある場合は、その治療を行い、更生に向けた具体的な行動をとることも考えられます。
情状面での有利な点を示す
情状について被告人に有利になる証拠を集め、裁判官に対して執行猶予の妥当性を主張していきます。
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情状についての主張としては、①被告人の犯行の態様が悪質でないこと、②被害の状況が軽微であること、③動機が悪質でないこと、④計画性がないこと、⑤家族の監督が期待できること
執行猶予獲得に向けて弁護士ができること
これまで説明した通り、刑事裁判において実際に執行猶予判決を下すか否かは、裁判官が当該事件におけるさまざまな事情を考慮して判断します。
具体的には、犯行の悪質性や、被害がどれだけ大きかったか、前科があるか、被害者との示談の成否、犯人が反省しているかなどの様々な事情を考慮して決定されます。
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起訴され、刑事裁判になった段階においては、被害者との示談を成立させることや被告人の反省を示すことが非常に重要になります。
そのためには、被害者との示談を成立させ、被害弁償を行うことが非常に重要となります。
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刑事事件の被害者との示談交渉は基本的には弁護士が行います。
したがって、刑事裁判で執行猶予判決を受けるためには、弁護士が示談交渉をしっかりと行い、示談を成立させるよう動くことが重要です。
事件そのものの結果が重大でないことを立証する
犯行の悪質さや被害の大きさ、前科の有無などは後から変えられるものではありません。
もっとも、当該事件の結果について、過去の裁判例などを調査し、厳しい処分が下されていない場合は、当該事件についても実刑ではなく執行猶予にすべきであると主張をすることも考えられます。
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最終的には裁判官が決定することではありますが、量刑について不当な判断がなされないよう、主張をしていくことになります。
事件後の反省や再発防止についてアドバイスが可能
最後に、執行猶予が付くかどうかを判断する際には、反省をして再犯可能性がないことや、再発防止のための環境が整っているかも重要なポイントとなります。
家族に監督をしてもらうことはもちろん、事案によっては、病院における治療を受けたり、ソーシャルワーカーや臨床心理士等各種専門家の協力を得たりしながら再発防止を図ることも必要となります。
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これらのことについてもじっくり話を聞き、アドバイスをしながら執行猶予獲得に向けてサポートを行います。
執行猶予をとれるかどうかお悩みの際は弁護士にご相談ください。