SNS等犯罪の類型について
本コラムでは,SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の利用に伴い生じる犯罪について紹介します。
現在,日本では7975万人もの人がSNSを利用しており,その普及率は80%に上り,今後も増加傾向にあるとされています(ICT総研 2020年度 SNS利用動向に関する調査結果参照)。SNSは気軽に他社とコミュニケーションが取れたり,世界中の人に向けて発信したりすることができ,自己実現のためのツールとなる反面,使い方を誤れば犯罪行為の当事者になる可能性もあるものとなります。
SNS利用に伴う犯罪行為としては,①マッチングアプリ等の利用に伴う男女間のトラブル,②青少年とのトラブル,③知的財産関係のトラブル,④その他,誹謗中傷や名誉毀損等のトラブルが一例として考えられます。
マッチングアプリ・SNS犯罪について
マッチングアプリやSNSは,インターネットサービスを通じて第三者と知り合うことが可能です。
適切に利用することで,実際に友人,恋人や結婚相手を見つけられるケースがある一方,トラブルや刑事事件に巻き込まれるケースも散見されます。
マッチングアプリやSNSといったネット上での出会いは,インターネット上でのメッセージのやり取りのみで親しくなり,実際に出会うというケースが多いです。つまり,相手の人となりも十分に把握する前に気軽に会ってしまうことが多くあります。そのような場合に,後々トラブルになってしまう場合もあります。
強制性交等罪(旧強姦罪)となる場合について(相手から言いがかりをつけられた場合)
マッチングアプリを通じて知り合った異性と性行為を行った場合で,後に無理やり性行為をさせられたと被害を訴えられた場合,強制性交等罪に該当する可能性があります。
通常,性行為の際には,その場の雰囲気や「同意をしてくれているだろう」という推測により,明確な同意を取らないのが普通ではないでしょうか。その結果,十分に人間関係が構築できていない相手との間では,その同意について後々,問題となることが見られます。
特にマッチングアプリで出会ってから早い段階で性行為に及んでしまった場合,認識の齟齬が生じる可能性があります。
このようなケースで,後々同意なく性行為をされたと主張された場合,強制性交等罪(2017年6月の刑法改正以前は強姦と呼ばれていた)に問われる可能性があります。
また、お酒を飲ませて酩酊させ,抵抗できない状態で性行為に及んだ場合は準強制性交等罪,これらの罪を犯して怪我をさせた場合は強制性交等致傷罪に問われる可能性があります。
強制性交等罪(旧強姦罪)は,暴行又は脅迫をして性交,肛門性交又は口腔性交をすることにより成立します。(刑法第177条)。
つまり,以下の2つの要件を満たすことで成立します。
①反抗を著しく困難にする程度の暴行又は脅迫があったこと
②相手の同意がなかったこと
要件を確認し,「強引にいったが、反抗ができないくらいの暴行や脅迫は行っていないから犯罪は不成立だろう。」と胸を撫で下ろした方もいるのではないでしょうか。
ここでの暴行又は脅迫は、典型的な殴ったり,押さえつけたりする行為や,脅すなどの行為が含まれるのはもちろん,性行為に至る過程で行われた,手を引っ張ったり,抱きついて覆いかぶさるといった行為も,その時の状況や言動と相まって暴行又は脅迫があったと評価されることがあります。
つまり,自身としては通常の性行為をしただけと思っていても,状況次第では成立する可能性が十分あります。
強制性交等罪,準強制性交等罪の法定刑は,5年以上の懲役刑とされ,非常に厳しい刑罰となっています。
ストーカー規制法による規制にかかる場合について
ストーカー規制法で規制の対象となる行為は,「つきまとい等」と「ストーカー行為」の2つです。
「つきまとい等」とは,恋愛感情や好意の感情,それが満たされなかったことに対する怨恨の感情を満たす目的で,以下の8つの行為をすることです。
① つきまとい,待ち伏せ,見張り,押し掛け,うろつき
② 行動を監視していると思わせるような事項を告げる
③ 面会や交際の要求
④ 下品又は乱暴な言動
⑤ 無言電話,拒否後の連続電話,FAX,メール,SNS等
⑥ 汚物や動物の死体を送付
⑦ 名誉を傷つけるようなことを告げる
⑧ 性的羞恥心を害することを告げたり,文書や写真等を送ったりする
これらの行為は,交際関係(元含む)にある相手に対して行われることが多くみられます。
また,無意識で行ってしまうことが多いのも,ストーカー犯罪の特徴です。例えば,連絡をしたのに返事がないため,何度も連絡を繰り返す等があげられます。特に,マッチングアプリやSNSでは,出会いの気軽さから,一方的に好意を持ち,相手の気持ちを考えることなく上記のようなことをすれば,ストーカー規制法違反となる可能性があります。
ストーカー規制法の罰則は,「ストーカー行為をした者(第18条)」と「禁止行為等に違反してストーカーをした者(第19条)」で処罰規定が異なります。
① ストーカーをした者(第18条)
ストーカー行為により逮捕などをされた場合は,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。例えば,処罰を求めて被害者が被害届を提出した場合などです。
② 禁止行為等に違反してストーカーをした者(第19条)
警察は,被害者の申出により,「ストーカーをやめる」旨の警告をすることができます。その警告に従わず,繰り返してつきまとい等をする恐れがある時には,更に公安委員会から禁止命令等が命じられます。
これらの禁止命令等に違反して,ストーカー行為をした場合は,2年以上の懲役又は200万円以下の罰金となります。
青少年育成条例違反(淫行条例違反)になる場合について(未成年)
SNSは,マッチングアプリと異なり,18歳以上のみ使用可という制限がありません。そのため,SNSを通じて未成年者と知り合い,トラブルになるケースも見受けられます。
まずは,同意の上で,18歳未満の未成年者と性行為又は性交類似行為を行った場合,青少年育成条例違反(淫行条例違反)に問われる可能性があります。
また,近時「パパ活」などと言って,交際をする見返りに金銭を支払うといった行為をする未成年者も増えています。性行為を目的とするものでなくても,最終的に未成年者に金銭を支払う対価として,性行為又は性交類似行為を行った場合,児童買春罪に問われる可能性があります。この場合,刑罰は5年以下の懲役又は300万円以下の罰金と厳しい刑罰が科されます。
Youtubeに関連する犯罪について
Youtubeは,撮影した動画をアップすることで世界中の人に向けて自身の動画を視聴してもらうことができます。
最近では,動画の視聴回数を増やし,告収入を得るYoutuberも増えました。誰でも気軽に動画をアップロードし,視聴者が増えれば一攫千金も夢ではないyoutubeですが,法令違反に該当し警告を受けたり,実際に逮捕者が出るなどのトラブルも発生しています。以下では,特にYoutubeで発生しやすい著作権関係の犯罪と,迷惑行為に関する犯罪について紹介します。
著作権法違反になる場合(ファスト映画に関する報道)
YouTubeにおける著作権侵害について,意識せずしてしまった行動の中には,著作権侵害と取られてしまうパターンが多くあるのも事実です。具体例としては,最近逮捕者もでたファスト映画のアップロードがあげられます。
ファスト映画とは,映画の映像や静止画を無断で使用し,字幕やナレーションなどをつけてストーリーを10分といった短い時間にまとめて説明するものをいいます。映画好きが高じて,映画の解説をしようと,ファスト映画をアップロードしてしまった場合,著作権侵害(複製権侵害等に該当する)として罪に問われる可能性が高いです。この場合,10年以下の懲役刑又は罰金1000万円以下の罰金若しくはこれらが併科されることになります。
著作権侵害が認められた場合,刑事罰を受けることはもちろん,民事でも多額の損害賠償責任を負うことになる可能性も高いといえます。
問題行動をYoutube等動画サイトに投稿してしまった場合
いわゆる「バイトテロ」と言われる,アルバイト社員が勤務中の問題行動を動画で撮影し,TwitterやYoutubeにアップロードする行為が社会問題となりました。これにより,閉店に追いやられた店舗もあります。
これらの行動は,業務妨害罪に該当する可能性があります。
また,上記の著作権侵害の場合と同様,民事上の責任を追及される可能性も高いといえます。
また,迷惑系Youtuberとして活動していた人物が,スーパーで会計前に商品を食べ,空になった容器をレジに持っていく動画をアップしていたこともありました。再生回数を伸ばすことを目的としていたのか分かりませんが,動画内でした行為が犯罪行為に該当する場合,当然ながら罪に問われることになります。自身が撮影した動画が犯罪を立証する証拠として利用される可能性も大いに考えられます。
SNS等犯罪について,弁護士ができること
SNS,マッチングアプリは気軽に利用できることから,万が一上記のような犯罪行為の当事者になった場合でも,あまり深刻に考えない,あるいはばれないだろうといった考えになることも考えられます。
もっとも,これらの犯罪は事実関係を認める以上は迅速に被害者と示談することで処分が軽くなる可能性もあります。被害者との示談は当事者間では難しく,弁護士のサポートが必要不可欠です。
また,Youtuberとして活動する場合などは,著作権はもちろん,各種規約なども遵守する必要があります。そのような場合も,法令,規約のことに関しては弁護士に事前に相談することをおすすめします。
SNS等の利用に関しては,トラブルになる前に弁護士に相談することをおすすめします。